まさか『婿取り』という言葉が出てくるまで、
俺はそんなケースが在り得るなどとは、全く考えてすらいなかった。
まったくの勉強不足である。
そのことをいま、目の前に突き付けられた。
「そいつは困ったねぇ~。
ウチは嫁さんもらう側だし・・・。
大体俺、婿なんか行く気ないしなぁ~。
行くこと自体、大問題だゎ・・・一族中の・・・。」
いや婿に行くこと自体、大反対されることは目に見えていた。
するとK子が本心を話し始めた。
「私だって、婿取りなんて嫌よ。
絶対、お嫁に行きたいもの・・・。
そして子供たちに囲まれた、幸せな家庭を作るの。」
俺は、K子の以外と頑固な性格を垣間見た。
なるほど、これくらいの気概がないと、
ウチではやって行けないだろうと半ば安心した。
だが、子供たちに囲まれた・・・?
一体、何人産むつもりなのだろうか・・・?
「そうか・・・、どうしようかぁ~?」
「ねぇ、何か考えてよ・・・。
じゃないと私、お嫁に行けないよ?」
K子は催促してくる。
「ちょっと待て、あまり急かせるなよ・・・。」
まず状況を整理する。
現在の薬屋を継続するには、薬剤師免許を持った者が必要である事。
それはつまり、薬剤師免許を持つ者がK子でなくとも良いという事。
ならば答えは簡単だ・・・。
「そうだ、こうしよう。」
「何か、良い方法でもあるの?」
「結局、薬剤師が居れば良いんだよな?」
「そうよ?」
「だれか薬剤師を雇おう!」
「良いわね、それっ!
それなら気兼ねなく、お嫁に行けるわ!」
しかし親の心情からすれば、子に店を継いで貰いたいであろう。
そして家を出たからと言って、親を疎遠にする訳にもいかない。
嫁に出た後のフォローが、どうしても必要となる・・・。
「だからって、お母さんのところを素っ気無くするなよ?
優しく、いたわってやらないと・・・。」
「は~い。」
すっきりした笑顔でK子は答えた。
が、本当に分かっているのかね?コイツ・・・。
結婚するってのは、ゴッコ(遊び)じゃないんだよ?