帰りのホームルーム少し前、U子が俺に駆け寄ってきた。
K子が居ないのを見計らって、耳元に話しかけてくる。
「あのね?
いま、S美ちゃんのお姉さんが呼んでるんだけど・・・どうする?」
U子は同じO小学校出身のS美をよく知っている。
当然、S美の姉のことも知っていた。
大体、察しはついている。
S美姉妹はとても仲が良いので、予感はしていた。
おそらく、保健室での件だろう・・・。
「分かった、いま行くよ・・・。」
廊下に出てみると、S美の姉が待っていた。
「やぁ、しばらくぶりだね?
もう生徒会に復帰はしないのかい?」
「お久しぶりです。
もう基本が出来たので、私は必要ないでしょう。」
「そうか、残念だな・・・。
後で少し、付き合ってもらえないか?」
「わかりました。」
「じゃ、私は先に校門前で待っているから。」
「何かあったの?」
U子がこそこそと聞きに来る。
「さぁ?分からないよ。
先にK子を連れて帰ってくれるか?」
「うん、いいよ。」
あまりK子たちに心配をかけたくない。
これは、俺の問題だ・・・。
ホームルームが終わり、クラスメイト達が散っていく。
「じゃあ、U子ちゃん達と先に帰るね?」
女の勘なのか、K子は怪訝そうに俺を見た。
「ああ・・・。
十分、気を付けるんだぞ?」
俺はK子たちを見送ってから、校門前に向かった。
そこにはS美のお姉さんが、既に待っていた。
S美の姉は男勝りで、絶えず優しい妹をかばっていた。
つまりS美をいじめた奴は、お姉さんにいじめ返されるのである。
ある意味、俺はS美を泣かせた。
当然の成り行きだろう。
「お待たせしました。」
「まぁ、歩きながら話そうか・・・。
実は、いつぞやの晩に妹が部屋で泣いていてね。
以来、元気もないんだ。
事情を聴けば、君が妹を振ったらしいじゃないか。」
「ええ、そうなりますね・・・。」
「否定はしないんだな?
なぜ妹を悲しませたんだい?」
「悲しませようとは思っていませんでした。
しかし、結果的に悲しませてしまった。
だからと言って、お姉さんに謝罪はしません。」
「なぜ?」
「これは私と妹さんの問題で、
お姉さんが関わる問題ではないからです。」
「・・・・・・・。」
「正直、妹さんは気丈に振舞ってはいますが、根が優しすぎるんですよ。」
「なら、それで良いじゃないか?
付き合いなさいよ、妹と。」
「それでは駄目なんです・・・、私の場合・・・。
私の家は十数代続く旧家で、しかも総本家です。
そして私は、総本家の当主になる人間です。
当然、親類縁者が多いですから、
それらを束ねていかねばなりません。」
「君の家は、そんな家柄なのかい?」
「そうです。
ですから私は、周囲からの重圧に耐え、
私と共に、一族を統括できる女性を選ばなければならないのです。」
「そこまで考えているのかい?
しかしそれは、時代錯誤じゃ・・・。」
「でも、実際にあるんですよ。
そういう世界が・・・。
そして私は、そういう家に生まれ、育ってきたんです。
真の強さがなければ・・・、優しさだけでは潰されてしまう。
場合によっては、非情さも必要な世界なんです。」
「凄いな・・・、君は・・・。
強い男だ・・・。」
「だから、仮に妹さんを迎え入れたとしても、彼女では自滅してしまう。
そんな残酷なことは、私には到底出来ないのです。
過去に、少しでも好意を抱いた相手でもあれば、なおさら・・・。」
「そうか、君は女性の事を真剣に考える、本物の大人の男なんだね?
惚れた腫れたのぬかす、他のチャライ男達と全く違うよ。
さすが私の妹だ。
男を見る目は間違いなかったな・・・。
私も君に、惚れてしまいそうだよ。
君みたいな男と一緒になれる女は幸せだな?」
「褒めていただいて、ありがとうございます。」
「分かった。
私からも妹を説得してみるよ。
でも残念だな・・・。
私は君みたいな男には、ぜひ義弟になって欲しかったよ・・・。」