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DLさんの公開日記

2013年
05月13日
00:06
▼ウェルツ▼

――ヴン…

何の変哲もない空間が、突如歪む。そして歪みの中から擦り抜けるように、黒い外套を羽織った長身の男が床に下りた。
「…此処も久しぶりだな」
静かに呟きながら、ウェルツは辺りを軽く一瞥する。
以前彼は此処でベリアウルデと共に、闇に堕ちた神、リツと戦った。
「さて」
ウェルツは続いて歪みの中から現れた青年に向き直る。
「…貴様、名をヴィルトと言ったか。いい判断力を持っているではないか。まずは褒めてやる」
笑みを浮かべ、自らが誘った青年、ヴィルトに近付き腕を伸ばす。
「…さぁ…大人しくしていれば余計な傷を作らずに済むぞ――」

▼ヴィルト▼

そうは言われても大人しく血を吸われてやる義理など無い。
ヴィルトは無意識に銀の前髪を掻き上げ、ついでに差し伸べられた手を払う。
「――はっ。お前に褒められても、何の自慢にもならん」
直前にアルトから投げ渡されたハルバードを無造作に担ぎ直し、
「そもそもオレはお前とやり合うつもりなんざ毛頭無い。ただ、あの場に居るよりは良いだろうから、誘いに乗ってやったんだ」
軽口を叩いてみたは良いが、恐らくウェルツは強い。自分よりは、確実に。
アルトはヴァースから話を聞きはしていたのだろう、あの状況でこれを投げてよこした。何かしらの、足しにはなる筈。
しかし……これも、思っていたよりは、重い。
(……扱い切れるか……)
ウェルツの言からするに、この場を知っているのだろう。特異な力の働く空間ではないことを祈るばかりだが、何にしても情報が少なすぎる。
式典の話は小耳に挟んではいたが、こちらでそういったゴタゴタに関わりたくは無かったことも有り、しっかり話を聞いたことは無かった。
今となっては、悔やまれるのみである。
先程ああは言ったが、何もせず逃がしてくれるとも、思えない。
(……退けられれば、良しとするか)

▼ウェルツ▼
目の前のヴィルトから心地よい緊迫感が伝わってくる。
「くく、やはり貴様は俺が最も楽しめる選択肢を選んでくれるな」
ヴィルトの反応に満足するかのように笑いながら、改めて彼の装備に気を留める。
――刀…右手に見慣れない魔力を秘めた防具…他にも何らかの暗器を用意しているようだ…
「…ふむ…だが、俺とやり合うつもりはないにしても随分と立派な装備ではないか」
ヴィルトが担ぎ直したハルバードは、本来彼が扱うような武器ではない。
≪アイオーン≫はあの場でヴィルトと一緒にいた男、アルトが持っていた武器だ。
恐らくヴィルトの身を案じ、機転を利かせたアルトがワープ空間の中へぶち込んだのだろう。
「――レディ」
ウェルツは指を鳴らしグランドハープ型の魔器≪レディアンス≫を召喚すると地を蹴って後方へ跳び、そのまま浮遊する。
「フン。痛め付けた貴様を貪るついでに、そんな使い慣れん武器で貴様がどこまで俺の相手が出来るのか試してやろう」

『――prestoープレストー!』
高速で奏でられた弦は無数の『♪』型の使い魔をウェルツの周囲に出現させる。
「遊んでやれ」
使い魔≪プレスト≫は牙を剥き蝙蝠の如く群れながらヴィルトを襲う!

▼ヴィルト▼

聞き分けの無い子供の、一つ一つの反応に肩を竦めるような――格上の余裕。
憤りを感じるだけ無駄だ。ウェルツには自分を挑発するつもりなど無いのだから。
そこに在る余裕は、自分との純然たる格差。
品定めでもするかのような視線。
「遣り合うつもりは無い」そんな口先だけの牽制も、見透かされているだろう。構わない。1秒でも2秒でも、時間を稼ぎたかった。
この格差を埋める戦法を、一欠片でいい、糸口を掴みたい。
しかし彼は一時でも早く「遊びたい」のだろう、
『――prestoープレストー!』
思考を遮って流れるアレグレットの旋律。
「好みじゃねぇな……っ」
この速度では反応できないと判断、くるっとアイオーン半回転させると、その刃を地面へ突き立て、刀を抜いて斜めに構える。
爆発でもしたらしたでその時だ――
大振りに横一線、先頭の2体を切っ先が抉ると同時に、万一に備えて後ろへ大きく飛び退る。
しかし降下する2体を飛び越え、何事も無く追随する使い魔達。
「なるほどっ」
これで存分に斬り落とせる。更に一歩下がりかけた足で地を蹴り、こちらから突っ込んでいく!
2体ずつ仕留められるよう角度を調整しつつ袈裟懸け、動きが単調なせいか、造作も無く片付く。
こんなところで体力を削るつもりは無い。右下から切り上げるように薙ぎ、追う右手で一匹掴んで地面に叩き付けた。
先程コイツの口に飛び込んだ時にも感じたが、思うより柔らかい。ボールとは言わないがそれなりに弾力のある質感。
これなら――
手前の一体を落とし、遅れて飛び来る残り十数体を認めると、今度は刀を鞘に収め、アイオーンを手に取った。
「さァて……」
肩に担いで体をひねり、
「御主人様の元へ――帰んなっ!」
両手で持ってフルスイング。
バチンッ、という何処か滑稽な音と共に数体を捉え、ウェルツへ向かって打ち返した!

▼ウェルツ▼

打ち返された使い魔は他の使い魔を幾つか弾き飛ばしながらウェルツに迫る。
「遊びが過ぎるぞ」
バチンッ――パァン!
右手を突出し、眼前に飛んできた使い魔一体をキャッチすると同時に握り潰した。
「何だ、俺とキャッチボールでもしたいのか。ヴィルト?」
宙で軽くターンし、続いて使い魔を二体躱す。

ヴィルトの反応が、とにかく愉快だった。
狙った獲物には興味が湧く。
増してやヴィルトのように、自分に牙を剥いて来る相手なら尚更のこと。
勝敗など、どうでも良かった。
…もっとこいつを暴きたい… 苦痛を与えたい… 喰らい付きたい…  
そんな渇望を実現させる為だけに、ウェルツはヴィルトを観察し続ける。

――次は、ヴィルトはどう対抗してくれるのか…

更にターンし背中で一体を躱すと、続いて手前に飛んできた使い魔の軸を擦れ違い様に右手で掴んだ。
『mesto-メスト-』
小さく呟きながら、振り返り様にウェルツはキャッチした使い魔の旗をハープの弦に掛け弓の弦のように引き伸ばす。
「…さぁ」
パンッ!
矢のように使い魔を発射すると、間髪入れずハープを奏でる。
「受け取れ!」
奏でられる旋律は重力を操作する。生み出された重力の渦はヴィルトの足元にフィールドを展開させ、見えざる圧力が脚を絡め捕り行動の自由を奪う!


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