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DLさんの公開日記

2013年
06月09日
17:18
▼ヴィルト▼

打ち損じた数体は、ハルバードを回転させることで弾き落とし、念の為に叩っ斬っておく。
返った使い魔を始末するかと思いきや、掴んだ?
「……ちっ」
弓の姿勢を取った時点で、やることは一つ。そしてこれは……「受け取れ」、つまり、プレゼントつきらしい。
要らねぇよ!
そんな問答を返す間など無い、踵を返し、恐らく着弾と共に四散するであろうその「弾」から距離を取る――
――筈だった。
ガクン、と、足が何かに取られたように、動きが鈍る。
地属性か、上位の重力か。
「知るか!」
右の拳を床に叩き付け、その護符で以て術のキャンセルを試みた。
一瞬、足が軽くなり加速するが、やはり何か掛かる力が違うらしく、再び絡め取られる感覚。
余計なことは考えない、一瞬でも効いただけ良いだろう。
振り仰げば、薄笑みを浮かべる吸血鬼。袖口から小型のナイフを二本、取り出すと同時に投げ付けた。
しかしその行く末は確認しない。どうでも良いからだ。
即座にハルバードを柄の末端で握り直し、迫る使い魔に刃先で迎え撃つ。
ぱくっと、切り口が開いたように見えた瞬間、手のひらサイズのガラス片に姿を変えて襲い来る!
「く……っ」
獲物の重さに慣れず、振り回した力に負けてバランスを崩すも、
「――そうか」
力の向きを変え「後ろへ」、地に落ちたその勢いで体を引っ張らせた。重ければそれだけ遠心力も大きい、利用しない手は無い。
足元に突き刺さる十数本のガラス片。追いすがる数本は、多少の傷覚悟、右腕で払い落とした。
避けても、喰らっても、ウェルツは楽しんでいたのだろう。
不愉快だ。
棒術の要領でハルバードを頭上から回しながら振り下ろし、地面に叩き付けた。


▼ウェルツ▼

「…ほぅ。“結界破壊”か」
ヴィルトがハルバード形態のアイオーンを地面に叩き付けた瞬間、手応えを感じた。
地に張り巡らせていた重力が弱化されたのだ。
アイオーンを振り下ろす直後でさえ特異な魔力の流れを感じなかった事から、恐らくアンチ効果を持つ魔道具を直前に足元に落とし、それを叩き割ることで発動させたのだろう。
しかし、こちらも詠唱なしで発動させた即興曲である。効果が薄らいだとしても気に留める事はない。
それよりも、あらゆる状況に於けるヴィルトの対抗手段を見ることが出来るのが何よりの収穫だ。
ウェルツは機嫌良く笑う。
「成程。此処まで“無傷”で来れた貴様が相手ならば、生身の人間とはいえ俺も力加減する必要はどこにもなさそうだ」

ウェルツは力加減が得意ではない。
その為、獲物を弄ぶ内に文字通り圧し潰してしまうことも少なくなかった。
その獲物の中には人間も数多くいたが、彼らの多くは重力操作に対抗する手段が見出せず、中には精神力が低く発狂する者もいた。
ところが、目の前の青年は人間であるにも関わらず、彼等の多くとは違い異質な魔力にも冷静に対処する術を知っている。
更に、重圧を弱化させただけではなく、その最中こちらへナイフを投擲してきた。
ナイフは目標を外したものの、こちらへの攻撃性を剥き出しにしている。この行動が、ウェルツを刺激した。
「――さぁ、もっと楽しいことをしようか」
魔器の演奏が継続する限り、術の効果も継続される。
例え弱化したとしても魔力を与えれば再び術は息を吹き返す。
これまでウェルツは演奏を途切れさせる事無く弦を奏で続けていたが…次第に曲調を荒々しく変化させ
「次は、どうだ――『変調forza・graveーフォルツァ・グラーヴェー』」

――ミシッ…!

術を発動した瞬間、ヴィルトの右足が沈み床に亀裂が入った。
今まで広範囲へ展開していた重圧が一気に凝縮、高濃度となった重圧がヴィルトの“右足”だけに絡み付いたのだ。
明らかに先程までの“捕縛”を目的とした重圧の域ではない。
ウェルツが奏でる演奏が、じわじわと右足にかかる重圧を増幅させていく。やがては“粉砕”させる威力にまで到達するだろう。
「くく…この状況で、右足の損傷を何処で食い止められるだろうな――『a2-ア・デュエ-』」
発動させた術は、左右の指が別々の音色を奏で、二つの効果を同時に発動させる奏法である。
右手で引き続き『変調forza・graveーフォルツァ・グラーヴェー』(一点集中型重力操作)を維持しながら、ウェルツは左手で別の演奏を始める。
『quartetto・mestoーカルテット・メストー!』
召喚された無数の刃はあらゆる方向へ空を切って飛来し、竜巻のようにヴィルトの周りを旋回しながら不規則に切っ先をヴィルトへ突き立てる!


▼ヴィルト▼

読まれている。
言葉が聞こえたわけでもないが、ヴィルトはそう直感した。
悟られぬよう苛立ちに擬装して発動させたのだが……やはりウェルツも術士、魔力の流れで解るのだろう。
しかしそれは、発動中も「流れ」は繋がっているということ。かけっぱなしではないという事だ。つまり――
(魔力の流れを断ち切れば、今すぐにでも落とせる)
発生源は、あのハープ。ハルバードの柄を短めに握り直し、こちらから駆けて行こうとした瞬間、
――ミシッ…!
床に亀裂が走り、右足がそこに沈み込む。
違う。
自分に、力がかかっている。その重圧の大きさは、先程の比ではない。
「く……っ!」
たまらずその場に屈みこみ、その弾みで、
――カチッ
「……?」
瞬間、手元のハルバードが崩れたかと思うと、形態変化、大きな鎌へと変化した。
どうやら何か変な部分を押したらしい。カチっという音は、その合図だったのだろう。
しかし……
『a2-ア・デュエ-』
ウェルツの声と同時に、掛かる負荷が増大する。
考える暇さえ与えられない。何かを押せば変化する、今はそれで納得しておく。
魔石をもう3つ取り出し、一つを足元に、一つを咥え、一つは手に持ったまま、
「紺色のエリプセ」
言うと同時に噛み砕き、大鎌を勢い良く振り下ろして足元の魔石を叩き割る!
『quartetto・mestoーカルテット・メストー!』
「風よ爆ぜろ!」
加えられた衝撃が大きい程、効果が上がる。ウェルツの第二波が届くより前に、弾けた風が、ヴィルトの身体を吹き飛ばした!
ダメージは、「紺色のエリプセ」、防御呪文で緩和できる。
空中でくるりと姿勢を反転、自分に掛かった魔法ごと、ウェルツの上空から襲い掛かる!

▼ウェルツ▼

片膝を付いたヴィルトが握るアイオーンの形状が、ハルバードから大鎌へ変化する。
「――フッ」
恐らくハルバードより当たり判定が広い大鎌で、刃の嵐を一網打尽に薙ぎ払うつもりなのだろう。
ウェルツは飛来させるメスト(刃)に魔力を注ぎ、自動追尾から手動に切り替えた。自在に刃を操作する事で生じる死角を的確に突こうとしたのだ。
――ところが。

『紺色のエリプセ』
聞きなれない詠唱、そして異質な魔力の流れを感じたかと思えば…
『風よ爆ぜろ!』

 ド ン ッ !!!

「――!」
ヴィルトは自らに対人結界を張った上で足元から爆風を起こし、刃の嵐が到達する前にウェルツの上空を取ったのだ!
「チッ!」
読みが外れ思わず舌打ちをしながら体勢を整える。
過去に悪役部屋でバトルと喧嘩した際にも重圧を逆手に取った攻撃を仕掛けられた事があったが、勿論対抗手段は幾つか用意している。
しかし、多くの手段は『a2-ア・デュエ-』(術の同時発動)を使う。ウェルツは既に『a2-ア・デュエ-』を使用中の為選択肢が狭まっていた。
『rest-レスト-!!』
咄嗟に魔器に休符の言霊を響かせ演奏を中断。
休符(一時の静寂)も演奏を作り上げる上では重要なテクニックの一つ。これは演奏による“術を一つ維持”させながら短時間演奏の中断を可能にする。
その瞬間ヴィルトの足に掛けられた重圧は解かれたものの、恐ろしい勢いで頭上から大鎌が振り下ろされた!
「ハァァァァッ!!!」
威圧感たっぷりの重厚な低音で吼えながら、ウェルツは魔器を力任せに大きく振り上げ大鎌の重い衝撃に噛ませる!
ガキィィィィン!!!

しかし全ての衝撃を吸収し切れず、武器を交えたままヴィルトと共に落下した。
その最中、間髪入れずにウェルツは素早く右手のグローブを咥え抜きくとシャッと乾いた音を立てて爪を伸ばし――
ドスッ!
突き出した右腕でヴィルトの利き腕…左肩に5本の爪を突き刺した!

――ドォンッ!

地面に着地するとウェルツはヴィルトの左肩を刺したままヴィルトの耳に囁く。
「よくぞ短時間で俺の重圧を解かせたな。益々気に入ったぞ」
ウェルツの頬には大鎌の風圧で切り傷が出来ていた。薄ら血が滲んでいる。
「……オレは…っ、益々アンタを嫌いになった……っ!」
吐き捨てるようにヴィルトは言い放つと、ウェルツの鳩尾を蹴り飛ばす!エンゲージを離脱するや否や素早く臨戦態勢を取った。
ウェルツもまた体重を掛けたヒールを地に刺し反動を止めながら、魔器を構え直す。
「いいぞ、貴様の意思に反して振り回してやる。何処までも嫌うがいい」
ウェルツが指を鳴らした直後『rest-レスト-』(休符)が解除された!

先回りさせ、真下の地面に潜らせていた刃の嵐(カルテット・メスト)が一斉に飛び出しヴィルトに襲い掛かる!


▼ヴィルト▼

「く……次から次へと……っ」
多少の傷は覚悟、ヴィルトは防御態勢を取らずに駆け抜ける!
モノはさっきと同じと見た。耐えられない威力ではない。折角ここまで近付けたのだ、この好機を逃す手は無い。
「定まらぬうつろいに、ひとかたの安寧を ――ゆめもりの箱っ」
右はアイオーンで塞がっている。ヴィルトは叫ぶと同時に、貫かれた左腕で魔石をハープに向かって投げ付ける!
アヤの得意技、「立方体の夢」。詠唱など必要無い。解っての言葉だった。
文言から言えば防御呪文、ウェルツがそう予測し、対処が遅れてくれれば――その為の、誘導。
「保険だ――火炎球(ファイアー・ボール)!」
続いて魔石を5つ取り出し、内4つを追加攻撃。これくらいしておいても、相手が相手だ、惜しくは無い。

▼ウェルツ▼

足元へ降り注ぐ刃の中をヴィルトは駆けて来る!
「豪放なことだ」
呟きながら人差し指で一弦を弾く。
その音に反応したのは、未だ地面に身を潜めていた、一本の鋭利な刃。
それは、ゆっくりと地面を突き破り姿を現すと、切っ先を静かにヴィルトの背に向ける。

『定まらぬうつろいに、ひとかたの安寧を ――ゆめもりの箱っ』

猛進するヴィルトが唱えた呪文は、戦禍をもたらすには余りにも相応しくない響きだった。
微かに感じられた魔力からしてみても、治癒や防御といったサポート系の呪文に間違いはなさそうだが…ヴィルトはウェルツに魔石を投げた。
その行為が意味する事とは――

――ッ!

察しが付いたウェルツはすぐさま指を鳴らし、ヴィルトの背を狙っていた一本の刃を発射させた!
そしてすぐさま確認するように全ての弦に指を滑らせ――

バチッ!

予想は的中していた。
「…成程な」
一部の弦に触れられない。触れようとした瞬間、指が見えざる何かに弾かれたのだ。
この弦に仕掛けられたエネルギーこそ結界『立方体の夢』である。
ウェルツは魔曲を封じられた。
しかし能力自体はウェルツに宿っているため術を使う事は出来る。但し、魔器は術を使う際の舵のようなものである。
魔器を通さない術の発動は制御が効きづらい為暴発する可能性があった。特に、重力など緻密な魔力バランスが必要な術なら尚更の事。

『保険だ――火炎球(ファイアー・ボール)!』
ヴィルトから4つの煌々と輝く炎が放たれる。
「掛け捨てだな。どうなっても知らんぞ…!」
ウェルツはハープを右手に持ち替え、火炎球が到達するタイミングを見計らい
「――グラーヴェエエ!!!」
力の限り『立方体の夢』ごと魔器を床へ叩き付ける!

ドオォォン!!!

火炎球を3つ巻き込み爆発のようなド派手な音を立てるが、効果はそれだけではない。
重力で圧迫された大地が錐の様に鋭利な地形を成し、天井に向かって次々と剣山のように聳えながら周囲に拡がる!
『立方体の夢』を破壊した事で重力の制御を取り戻すと、ウェルツはすぐさま地面の隆起を避ける為上空に避難する。しかし、頭上から潰しきれなかった火炎球がウェルツ目掛けて落ちてくる!
「――フンッ!」
パァン!
火炎球を払い落とした左手に痛みが走る。
「…くっ…やれやれ」
顔を顰めながらウェルツは地上を見下ろした。


▼ヴィルト▼

「違ったか!」
ハープさえ押さえればと思ったが、そうでもないらしい。
隆起する地表、ウェルツが上空へ退避するのを視界に収めつつ、今一度手元のボタンを押す。
変形する大鎌。間を置かず背後で風を切る音。
振り向く時間さえ惜しみ、ヴィルトは咄嗟に左へ身体を傾ける。右腕を掠りはしたが、気にしなければ済むと、痛みは割り切ることにした。
それよりも、波打つ大地を如何に回避するか。
「――避けられないなら!」
隆起が有れば沈降箇所もある。足を止めずそこを目がけて突っ込んでいく。
剣山の一つ一つが大きい。その分その隙間も大きくなる。
体を捻って避けつつも、小さな錐が足を掠め、大型の石柱は腕で庇うように「打撃」を防ぐ。
流石に無傷とはいかないが、下手に避けて致命傷を受けるよりはマシだろう。
「何か、無いか……っ」
何か、この状況を脱する方法が。このままではこちらの体力を削られるだけで終わる。
手元の武器は……
一体どう扱えば良いのか、先細りはしているが槍とは違う、独特の形状。片腕で持つには大型、反して細かい部品が見て取れるが――
観察の暇も無い、やや斜めに突出した一本が、ヴィルトを襲う!

ドガァッ!!

咄嗟に引き上げたアイオーンを盾にするも、衝撃に耐えきれず吹っ飛ばされた!
幸い波が通り過ぎた後の方向へ飛ばされた為、追撃は無く、踏み止まって膝をつく。
「……つ……っ」
防御が精一杯、衝撃を軽減する余裕も無かったので、防いだ手が痺れている。貫かれた左肩も、既に麻痺してきているらしく、感覚が無い。
落とした視線の先に、ぽたりと赤い一滴。苦痛に疼くのは右腕だが、恐らく左の方が傷は大きい。
見上げると、案の定火炎球のダメージは皆無らしい、ウェルツが悠然と微笑んで見下ろしていた。
取り出したままになっていた魔石を握り、ふわっと周囲が淡く緑色に光ったかと思えば、
「……ラインカーム」
気休め程度の回復呪文を呟き、石は捨てる。
続いて、
「ウェルツ!」
戯れでも良い、声を上げた。


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