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各月の日記

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いとまのこさんの公開日記

2009年
06月30日
23:55

添削前です。1週間公開してファン用に回します(*´ω`*)
あついなー。あつくてノートPCに触るのも嫌やー。


――――パチッ バチチッ

音と共に煙が上がった。
ゴーグルを外し、ソレを確認する。

「あーぁ。またやっちまった」

男が指を鳴らすと部屋の明かりが消えた。
部屋の中は急に壁に包まれた暗い部屋となる。
窓から差し込む日差しは男の背中を照らし
熱を持ったソレが赤く光っていた。

換気扇の低い振動音だけが響く。

「嫌われてるのかな」

ギィと音を立て、椅子の背にもたれた。
頭の後ろで手を組んだ男は、熱を逃がして闇に帰るソレを見送る。

赤く光る箱が次第に紫へと発光色を変えていった。
その箱が青くなる頃に、一人の足音が聞こえてきた。

「ごはんきたよー」

足音の主は部屋までくることなく、開けっ放しのドアからは
階段を響いて十分に聞こえる程度の声が聞こえた。
影に隠れた時計は午前12時を過ぎていた。

男は大して空腹感を感じなかったそれまでが嘘のように
グゥと腹を鳴らすと席を立ちあがった。

「今日のメイン何かなぁー!」

階段を上りながら少し遅れた返事をした。

「もぎょーむんが」

行儀悪いその声を聞くと男は少し反省した。
我が家にも礼儀作法が必要なのかもしれない。
しかしそんなことは何度も考えて、腹を満たせば忘れそうなこと。

「…。」

ふと、暗い階段を下りきる手前にあった張り紙メモに目が行った。

――"飯は2人で食べること"

そう書いてあった。それだけで十分かと思った。
どうやら過去の私はそこを重要視したらしい。

「ティー、その煮物くれ」

真っ先に目が行ったカボチャの煮付。
醤油色が程良く染みた橙色の宝石。私の好物だった。

「このフライくれたら」

少年は箸で自分の弁当のソレを掴んだ。

「…決裂」

男だけの家になってから、昼食は配給弁当になった。
食材は週に2度注文したものが届く。
二人で買い物に出ることもあまりなくなった。
弁当が来て、手を洗って席につけば食事が始まる。

男は手を洗い、冷蔵庫からソースを持ち出して席に着いた。

「いただきます」

 「いただいてます」

弁当のふたを開けると例のフライが既になかった。

「…なぁ」

 「カボチャなら晩に作る」

「おまえが?」

 「もち」

「へぇー」

男はその時、今日が何の日か知らなかった。
カレンダーを見ても思い出せなかった。

「ごちそうさまでした」

 「今日は何かあるのか」

「アメニおばさんがくるかもしれないし」

 「こないかもしれない、か」

「そういうこと」

カボチャにこだわる理由はなかったが負けた気はした。
弁当の一品よりは、皿いっぱいに乗せられる方が嬉しかった。
顔が勝手にニヤけるのが分かった。

「よし。飯も食ったし、そろそろ行ってくるかな」

 「おう。バスなら金忘れるなよ」

「あいあーい」

半分ほど食べた弁当を見ながらふと思い出した。

「"飯は2人で食べること"か…」

最後にカボチャを頬張り、行き場を失った箸を置いた。

「誰が誰に言ったんだろう」

男の記憶には過去がなかった。
覚えているのは自分がどんな仕事をして生きていたか。
それだけだった。

記憶の無い自分に"父さん"と話しかける少年がいて
しかし彼が息子だという実感がなかった。
記憶を失う前の私が何をしていたか聞いてみたが
彼もあまり多くのことは知らなかった。

親の仕事を理解している子供は少ない。
聞いた私もどうかしていたと思った。
母親についても聞いてみたがソレも知らなかった。
困りかねた私は誰なら知っているのかと尋ねると
彼も状況が掴めないのか、泣きそうな顔になった。

「あぁごめんよ。お前は何も悪くないよな」

抱きしめて頭を撫でてやった。
父親として何ができるのかは分からなかった。

それから、父親役が出来ないことに悩んでいたが

「あの年頃にはその程度が丁度いいらしい」

と聞いてからは、あまり人間関係に悩むこともなくなった。

ソレを教えてくれたのが"アメニおばさん"。
少年が唯一覚えていた私の仕事仲間らしい。
彼女と出会ってからの記憶は何となく分かった。

私の仕事はゴーレムを修理すること。
それは私の頭の中にもはっきりとしていた。

家屋の横に工場が隣接していた。
工場には動きそうにない物がたくさんあって
カレンダーにはソレを直すスケジュールが組まれていた。
この状況も私の仕事を物語っている。

記録によると"アメニおばさん"は10年前から私の大口の客で
定期的に修理が必要なゴーレムを送っていた。
私はソレを修理して送り返す。そして金が振り込まれる。
閉鎖的な生活だが恵まれた仕事環境であった。

記憶を失ってから彼女と会うのは今回が初めてだ。
しかし来客のスケジュールは私のカレンダーにはなかった。
おそらく私は"誰か"に生活の予定を管理してもらっていて
それが息子の仕事になる前も"誰か"がやっていたはずなのだ。

仕事場と家屋を繋げる窓の無い廊下には
その人物と築いた教訓が何枚も張り付けてあった。

"呼び名決定!ステアはティーちゃん!"

どうしてそうなったか。"誰か"は発想は豊かな人物だと思う。
そして正しいことを言っている気がした。



「ごちそうさまでした」



一人の食事はむなしい。
















  #001  それぞれの生活













「ひっさしぶりだわ!」




この女。アメニ・シャーロット。ゴーレム研究者であり
暗号解読ライセンスを持つ博士である。
ライセンスを持つ研究者はゴーレムが確認された場所で行われる
遺跡探索・発掘チームに召集される権利がある。

召集にはルールが存在する。

まずは発掘の場合、開拓・建設を中断して調査が行われるため
土地権利者の意見が優先される。
ここでは主に有力な実績を持つ者が召集される。

次に指名された召集メンバーはそれぞれ
自分のパートナー・チームを召喚することができる。
そして国からの指定メンバーを含め、8~10人規模の博士と
それに伴う約100人規模のメンバーで遺跡調査が行われる。

メンバーは国際的なライセンスを剥奪された時点で
無期懲役に準ずる罰則を被ることになる。こうした規則は
ゴーレム技術の漏えい対策は国際的な法律から、血族関係に
罰則を与えるようなローカルな法によっても守られている。


もう一つ、探索の場合。これは主に経済支援者が勝手に
個人にアプローチして行うのでライセンスの有無を問わない。
つまり法の外で起こる事件である。

しかし発掘したゴーレムに関して権利を主張する場合
ライセンスを持つ者がいなければ所有権を剥奪され
発掘所が所属する国有財産となる。

なお、個人が発掘されたゴーレムの所有権を得るまでに
平均10年ほどの時間がかかる。所有するゴーレムについて
国が安全を保証できない場合は危機管理金を納めなければいけない。
など、様々な条件を解決してやっと個人の所有物になるため
古代ゴーレムを所有する人物は上流階級の中でも稀である。

「学生の頃と変わってない…」

エアリア国は4つの区画に分かれている。

1区は国の中心にあり主に居住区である。
2区は東の海側で港を中心とした工業特区となっている。
3区は西の山側で観光都市と本の街として知られている。

そしてアメニおばさんの目的地となる4区。
北西に位置し、山の入り口に当たる。

4区はゴーレムの発掘場の跡地であり、開発途中の地区である。
スウェリアから独立できたのもこれらの発掘の賜物である。

簡単にゴーレム発掘商売の流れを説明すると
まず始めに、冒険者たちが未開拓地を切り開き道を作る。
その途中に遺跡があった場合、そこを拠点に研究者が発掘する。
そこで発掘されたゴーレムは国の技術支援団体、企業、
個人の私有物として買い取られる。金の分配としては
遺跡発掘主催と冒険者が情報料と成功報酬を相談する。
研究者たちにはポイントとしてライセンスに反映されており
主催側からの取引は基本的に禁じられている。

文面だけを見れば研究者たちが損をしているように見える。
ライセンスから給与される額は冒険者のソレと比べると
御駄賃程にしかならない。
しかし、この現状に不満を述べる研究者はいなかった。

実態はこうだ。研究者と主催側の取引は存在している。
そして、取引する物は没収される恐れのあるゴーレムや
事前に研究者側から提示されていたゴーレムである。
この事実は認識されつつも国は目を瞑っている。
事実、国が大企業戦うにはこの方法しかないからである。

これに対して企業側から訴えが無い理由も同じである。
企業側に売り込む研究者も存在するのだ。
お互いに隠しておきたい技術がある、というわけだ。

ゴーレム産業とはそうした灰色の構造で成り立っている。
それは兵器を内包した経済であることを意味していた。

この大まかな流れから推測される通り、研究者である
アメニおばさんはソレをステアの家に預けているわけだ。

勿論、支払いなどは関係機関を通せば済む話で
顔を出す程の用事はないのだが、仕事のついでに
記憶が無くなった古い友達のお見舞いにでも行こうか
という話なのである。

「ん?」

4区の駅に着く前に見慣れぬ光景が広がってきた。
そこには列をなして山の方へ歩く群れがあった。
歩く連中は人間に限らず、小さな動物から
化物のようにデカい連中までいる。が、しかし
彼らは互いを襲うことはないようだ。

ただ列を成して進んでいた。

「なんだなんだなんだ…」

気になってどうしようもなくなった女は
前の席に居る男に声をかけようとした。
前の席の背中にノックを二つ。

「すみませーん」

――――コンコン

返事はない。前の席の男はそういう状態なのだ。
仕方なく、座席から首一つ分腰を上げて周囲を見渡す。
高級座席においては4区まで列車を使う客は少なかった。
二つ後ろの席の女と目があった。
二人は目を大きくした。一人は驚き、一人は微笑む。
アメニは自分の席から一つ後ろに移動して、女の前に来た。

「あれ、何か分かります?」

 「いえ…私にも…」

覚悟していたのだろう。後ろの女は返事が早かった。

「駅とは方向が違うからいいけれど、ちょっと怖いですね」

 「そう?逆に気になりません?
  一体、何が始まるんだ!って!!」

「はぁ。どうにも。わたしは…」

 「ですよねぇ。安全第一ですよね。
  とか言いながら4区まで来たり?」

「仕事で…あっ、でも危ないものではないですよ」

会話は続いた。お互いに退屈だったのか。
知らない同士、答えの出ない会話が始まる。
それからしばらく経っても窓の向こうの列は続いていた。
訴えかけるデモカードを持つわけでもない。
アクションじゃないとすればギャラリー?
何にせよそれだけ集客力のあるものが
その列の先には存在しているのだ。

しかし二人の女はそんな推測とは関係ない身の上話をしていた。
物事の発見はきっかけに過ぎず、そこから生まれてくるものは
必ずしも行動の理由を肯定する結果でなくてもよい。
少なくともアメニの中にはそういう価値観があった。


"時はナマモノ、食わねば腐って忘れるだけ"


――――まもなく4区。4区に到着します。


旅人たちはそれぞれの目的地を浮かべ
列車を降りる支度を始める。
アメニも自分の席に戻ってソレを始めた。
列車連結部から外に顔を出して叫ぶ。

「ハナー、時間!そろそろ降りるよー」

 「はい!分っかりました!!」

金策に困る仕事柄、無賃乗車というわけではないはずだが
アメニの連れは列車の上部にいたようだ。

「もう大丈夫だぞ。おまえはもっと走れる」

ハナと呼ばれた少女はそう言うと風除けにしていた列車の屋根を畳み
屋根の上で吹き荒ぶ風を受け、線路のように続く列を見つめていた。

ソレが繋ぐもの、続くもの。そこには運ぶ何かがある。
それを考えただけで嬉しくなったりもした。

「ハウワズユワデイ!!」

ハナは両手を振って叫んでいる間に4区の駅が見えてきた。

「テリフィック!」

列車内に戻りアメニと合流して荷物を持たされるハナ。

「重ぇ。しかし外のアレはなんですか?」

 「さぁねぇ?」

「あんな行列は今まで見たことない。エイプリルマーチです?」

 「違うと思うけれど。
  学生時代に過ごしただけでもう何年も離れてるから…」

ハナはキョトンとした目でアメニを見ていた。

「…。」

 「何よ。学生時代があったら悪いわけ?」

歳の話にはあまり突っ込みたくないし
いい大人になったら数えたくも聞きたくもないだろう。
若い奴はこれだから困る。
アメニはそう考えていたのだが、ハナの答えは次元が違った。

「博士にも先生がいたので、まだ学生かと思ってました」

 「…。」

アメニは呆れて降車口に向かって歩き出す。
ハナの言う"博士の先生"とやらに急に預けられたのが
このゴーレムオタクの不思議少女だった。
たまに変な言葉を話すのは親の影響らしい。

「フフン。あと少しだ」

ハナはステアの家に預けられることになっていた。
男ばかりの家、というのが少し可哀想だが
自分がこんな子の面倒を見るのだけはゴメンだ。
大体、子供は会話をするだけで疲れる。

そういえば…。ステアはもう16歳。
早ければ自分の"移動機‐モビール"でも持ってるかな。
だとするとどう考えても2人乗りが限度。ハナはどうするか…。

列車に乗っている間はそんなことを考えていたが
列車を降りた頃にはもうそんな心配は消えていた。

「ハナ。荷物を持って先に行ってて。
 行先は分かる?メモは持ってる?」

 「はい、大丈夫です。バスなんてお手の物です。
  でも、何か用事ですか?」

「私はアレを調べる」

アメニは駅から線路に続々と降りていくその集団を
これでもかというほどのポーズで指差した。

「確かに気になります。分かりました。
 先方に何か伝えておくことはありますか?」

 「そうだな…。晩飯は私のおごりだと伝えておいて」

「太っ腹!」

 「あらどうも」

ハナが腹をポンと叩きながらそう言ったのを見て
何かにイラッとしたアメニはその場から追い出すように
背を押して駅の階段まで送ってやった。

何だろう。今はまだハナのことは全然分からないけれど
それが分かったところで私はハナを好きになれないだろう。
列車に乗って10分も経たぬうちに外に出ると言いだしたときから
ハナが私の嫌いな部類であることは分かっていた。
その性格はステアの父、ベルーノ先輩にも似ていた。
余計なことばかりして、周りを困らせるタイプだ。

「ご武運を!」

そのハナの言葉。私も心の中で繰り返して手を振った。



「さてと。ティーちゃんでも探しますか」



先に言っておこう。私は美人で、酷い女だ。



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