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新田真子さんの公開日記

2010年
12月06日
01:26
前世紀末に(というとおおげさですが、10年ちょっと前)カートゥーン・ネットワークで「デクスターズ・ラボ」が放映されてから、カートゥーン(ここでは海外アニメーションのことだと思ってください)のスタンダードが明らかに変わり、続いて「パワーパフ・ガールズ」が放映されてからは、アメリカのカートゥーンは全盛期に入り、この10年間はほぼ毎年、個性的かつ面白い作品が続々と登場。日本でもかなりの数が放映され、海外アニメファンをたのしませてくれました。
今思えば、「デクスターズ・ラボ」にはその後活躍する多くのクリエイターが参加していて、21世紀の最初の10年を支えるまさに土台となったわけですね。
アメリカだけでなく、カナダ、ヨーロッパでも注目したい作品が登場し続けたこの10年。こんないい時期が長続きするわけがない。いつかは息切れするときがくるのではないか。2020年には「ああ、あの10年は本当にカートゥーンの最高の時だったんだなあ」と、いつかそんなことを言う日がくるんじゃないだろうか。そんな心配もそろそろ現実になりかけていた昨今。だって、ここのところ、人気作の続きだとか、アレとこれを足して2で割ったような作品だとかが多くない?みたいなことがちらほら見え始めていたからなんですよ。さすがにいくらアメリカとはいえ、そろそろピークは過ぎたということか。もちろんいまだに続いている作品自体の面白さは変わらないわけなので、急につまんなくなったというわけではないんですよ。ディズニー・チャンネルの「フィニアスとファーブ」は早く新作が見たくてしょうがない。それでも全体を見渡せばさすがにそろそろかな、と思っていた矢先、2010年に出ましたよ。
何がって、「Adventure time with finn and jake」そして「Sym-bionic Titan」。この2本はとにかく面白い。10年で終わるかと思っていたこの時期に、とうとう出たか、という作品です。特に「adventure time」は子供のころからずっとアニメを観て育ってきたのに、こんなアニメ見たことない、と思わされた作品。一方「Sym-bionic Titan」は今では日本から姿を消してしまった、正統派「巨大ロボットアニメ」が、さらに進化をとげての登場。この2作品に、まだまだアニメーションには多くの可能性があるのだなと、あらためてアニメーションの素晴らしさを感じさせられました。

というところまでが前振り。

「キック・ザ・びっくりボーイ」というあまり注目度の高くないカートゥーンが、現在ディズニーXDで放映中。ケンドールがかわいいとか、ジャッキーは気が狂ってるとかそういう好き嫌い(実際には両方好きなので好き好き、そんなことはどうでもいいわX5)は別にして、この作品。内容はスタントマンを夢見る少年とその相棒が、命がけのスタントに命をかける、そりゃそうだ、日常を描いた、まその、よくあるどたばたギャグなんですが、実はこの作品にはさらなるアニメーションの可能性が隠されていたわけなのだった。

それは背景。アメリカ・カナダのカートゥーンで目立つのはフラッシュ・ベースのアニメーション。でもそのアニメーション作成機能の多くはキャラクター描写に費やされていて、背景はデジタルペイントではあってもこれまでの背景と大差ないあつかいだったのだが、「キック」ではテーマがスタントということもあって、オーソドックスな2Dアニメの絵でありながら、視点移動で背景が動きまくる、という描写が多い。すべてデジタルであるために、セルと水彩画のくみあわせという旧来のアニメーションでは表現不可能な、「その作品で背景に使われている静止画と同質の絵が動く」ということが可能になっている。しかも3DCG調ではなく、あくまで2Dアニメーションのままそれが可能になっているというところに注目したい。(実はそこんところは3Dでつくってましたとかいうオチは、あったとしても却下)特に第6話のbパート「悪魔のジャイアント・フィッシュ」では嵐にうねる湖面の描写にこのデジタル背景アニメーションがフルに生かされていて、3DCGに負けない迫力の絵作りに成功している。これはひとえに背景を担当したアニメーターの技量によっている可能性もあるのだけれど、そのアニメーターの要求にこたえられるツールがすでに開発されている、ということでもある。「キック」は流体(平たく言うと水)の描写にこだわりがあって、水溜り、水ふうせん、水滴、水しぶき、などが独特のイメージでアニメートされているのも特徴だ。ここでもポイントは背景に描かれた水と同質の水がアニメートされているというところ。当然、そういうことを前提に全体のデザインが決められていてこそなんでしょうけれど。
これは新しいですよ。2Dアニメでありながら背景も積極的にアニメーションに参加するというのは面白い。アニメーションにはまだまだやれることがあるというわけです。

多くの可能性を残しつつ、次の10年は、さらに面白い作品が登場することになるのか、それとも「Adventure time」らが、21世紀初頭のカートゥーン最盛期の最後のあだ花になるのか。はたして2020年にはどんな気持ちでアニメーションを見ていることになるんでしょうね。
でもその前に。いまだ日本未放送のカートゥーンをもっとやってくれよう。たのむよう。いやまじで。