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SHOWRIさんの公開日記

2011年
09月26日
02:53
 「タッ、タマ!」
 しょーちゃんは怒ったりしないだろうが、おれは慌てた。
 「タマは、タマはヨシアキのこと、
 スキなぁのーにー!」
 言葉の途中から、真っ赤な顔をしてタマはポロポロ泣きだした。
 妹みたいに、それでいて一番仲のいい友達みたいに思っていた小さなタマ。
 タマの“スキ”は、最初からそういう意味だったのだと、おれはこの時初めて知った。
 細く、高く、悲鳴に似た声を上げてタマは本格的に泣き出した。
 そんなつもりじゃなかったのに、本気でタマを傷つけてしまった。
 泣かせてしまった。
 そのことに、おれ自身もまた傷ついていた。
 泣き声が、心に痛い。
 「ひぃーぃ、うっく、くーぅー・・・ふぇーーーー」
 もう二度と笑ってくれないんじゃないかと思えた。
 どうしたらいいかわからない。
 ホワイトアウトはさっきの比じゃなかった。
 「違うから、違うから、違うから・・・」
 おれは早口につぶやいた。
 今のこの状況全部を否定したかった。
 「違うんだ・・・。」
 立ち尽くす自分、泣いているタマ、破かれて垂れ下がったポスター。
 おれは、タマにちゃんと説明しなきゃいけない。
 凍りついた体が動き出す。
 ポスターに手をかけて、おれはもう一度口を開いた。
 「タマ、違うんだよ。あんなの嘘なんだ。」
 涙で濡れた目が、おれを見る。
 びりっ。
 俺はポスターを乱暴に引き剥がした。
 「こんな子、好きじゃないから。」
 びりびりっ。
 さらに細かく破き、丸めてゴミ箱に捨てる。
 「タマのこと、泣かせるなんてっ」
 言いながら、声が震えているのに気づいた。
 目の奥が熱い。
 「ごめんね、ごめんっ・・・」
 謝っても、許してくれないかもしれない。
 スキって言ってくれてた気持ちを、裏切ってしまった。
 わかってなくて、ずっと裏切っていた。
 嫌われるかもしれない不安に押しつぶされて、タマの気持ちを思うと苦しくて、涙がこぼれた。
 「ヨシアキ、なかないでぇ・・・」
 言いながら、タマはまた泣き始めた。
 「ごめ・・・」
 それでも止まらなくて、おれも泣き続けた。
 「いいの、タマ、ぇくっ、タマごめんなさいするから、ごめんなさいするからもうなかないで?ごめんなさい、ヨシアキ、ごめんなさい。」
 「もういいよ、ごめんっ!」
 それだけやっと言うと、おれはタマをぎゅっと抱きしめた。
 涙がひいても、俺はまだ少し不安でタマを放すことができなかった。
 「あんな子、好きじゃないからね。
 タマ、信じてね?」
 声が元に戻っている事を確認しながら、おれはつぶやいた。
 「ほんと?」
 「うん。あれはしょーちゃんがくれただけ。
 嘘ついてごめんね、急にあんなことされて
 ぼくもびっくりしちゃったんだ。」
 「うん・・・ゆるしてあげる。」
 おれの腕のなかで涙をぬぐいながらタマがそう言ってくれて、おれはやっと不安感から解放され、タマから手を放すことができた。
 「でもね、タマとは、えっと、・・・変な事はできないっていうのは本当なんだよ?」
 おそるおそる説明する。
 「ヘンなこと?」
 泣きやんだはいいが、タマは説明しづらいことを無邪気に訊き返してきた。
 「えー・・・と、だから、あの、さっきタマがしようとした事!」
 「えー?」
 不満げな声が返ってくる。
 見た目も中身も子供のくせに、する事はしたかったようだ。
 でもこれはきちんと諦めてもらわないと、また襲われてはたまらない。
 「だってタマはぼくの」
 言いかけて、止まる。
 いつまでも“ぼく”なんて言ってる子供じゃダメなんだ。
 おれは言い直した。
 「タマはおれの妹なんだぞ?
 お兄ちゃんは、妹にそんなことしたりしないんだ。
 わかるだろ?」
 おれはタマのお兄ちゃんなんだから。
 弱っちーお兄ちゃんじゃ、妹は守れない。
 「じゃあもうイモートやだ。おニィちゃんなんてやだ。」
 「じゃ、家族じゃないから一緒に住めないじゃないか。」
 ダダをこねだしたタマに困ったおれは、少しだけ脅かす。
 「やだー、どっちもやだー!」
 脅しても全く解決しない。
 おれは少し考えた。
 今までと同じようにいたいだけ、それをどう話そうか。
 「タマ、おれは妹としてタマが好きだよ。」
 「イモートやだぁ。」
 「でも、大好きだよ。ずっと可愛いって、言ってきたよね?」
 「うん。」
 タマはとりあえずうなずいてくれた。
 「今までおれと一緒にいて、タマは不満だった?」
 「ううん。」
 タマは首を横に振った。
 「おれは、楽しかったよ。一緒にいれてよかった。」
 「タマもー。」
 タマは、笑った。
 やっぱりその顔は可愛くて、だけど抱きたいとかそんな気持ちには絶対なれない種類の感情。
 「じゃ、今までどおりでいいんじゃないかな?
 変なことしたいっていうなら、
 おれはタマと他人でいなきゃならない。
 妹だって可愛がったりできないよ。そのほうがいい?」
 タマの表情が曇り、不安そうな顔に変わる。
 「やだ、やだやだっそんなのゼッタイやだ!」
 懇願するように抱きついてくる。
 小さな頭をなでてやる。
 「大丈夫、今までどおりにしてればいいんだから。」
 「うんっ。タマ、それでいい。がまん。」
 見上げてくる顔は笑っていたが、瞳にはひとかけら、切なさが見えた。
 ちくん、と。
 かすかに胸がいたんだ。
 おれにとっては今までどおり。
 だけど、タマには我慢。
 ワガママに見えて、これでもタマはたくさん我慢している。
 この家では、おれがいないときは姿を消して息をひそめていなければならない。
 おれ以外の家族とは接触しちゃいけない。
 したがって話し相手はおれか、時々遊びにくるしょーちゃんくらいしかいない。
 だからたぶん友達もいない。
 隠れてTVくらいは見ていても、退屈な時間はきっと多い。
 ご飯も抜きで、オヤツを少し分けてもらえるだけ。
 たくさん、たくさん我慢してやっとここに居られる。
 そのタマに、また我慢を増やすことになる。
 「ごめん・・・だけど、大好きだよ、タマ。」
 おれの言葉に、タマの表情はさらに曇った。
 「ヨシアキ、かなしいの?」
 「え?」
 顔に出ていたのだ。
 おれは、笑って見せた。
 「ううん、平気だよ。」
 それで、タマも笑ってくれた。
 「ちいちゃいタマが、大好きだよ。
 ずっと、そのままでいいんだからね。」
 「うん、タマもヨシアキ、ダイスキー。」
 抱きしめてやると、タマはいつのまにか出ていたふさふさのしっぽを嬉しそうにゆらした。

 次の日、ポスターのことを正直に話して謝ると、しょーちゃんは最初驚いていたが、やがて真顔に戻り、
 「泣かせたか・・・悪かった。ごめんな。」
 謝ってくれた。
  ◆
 「ヨシアキー。」
 パソコンをいじりながらショウリは少しうんざりした声を出した。
 「ん?」
 そのショウリをじっとみていたヨシアキはビールを口にふくみながら返事をした。
 ショウリは顔をパソコンにむけたまま、言う。
 「うすら笑いうかべて人の事見てんじゃねえよ、気持ちわりぃ。なに考えてんだお前。」
 ヨシアキはむっとして言い返す。
 「そーいう言い方するから誤解されるんだよしょーちゃんは。」
 「誤解?」
 ショウリはヨシアキを振り返る。
 ヨシアキの顔は、笑っていた。
 「本当は優しいくせに。」
 「ホントに気持ちわりぃ事言うんじゃねえよ。」
 ショウリはヨシアキの頭をはたいた。
 動いた拍子に髪の隙間からのぞいたショウリの目は、少し照れた表情をのぞかせていた。