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SHOWRIさんの公開日記

2011年
11月27日
18:30
 お稲荷さん、というのは我々のことを指さない。
 我等狐は稲荷神の使いであって、“お稲荷さん”そのものではないのだ。
 だが、この小さな狐はそれを知らぬらしく、私が休んでいる狐の像に向かってしきりに話しかけてくる。
 「ねーおイナリさん、タマもおイナリさんなんだよー。
 でてきていっしょにアソぼうよー。」
 大きくてくりくりした目の、可愛らしい女の子の姿をしてはいるが、まとっている気配というか、ニオイというか、力の性質は我等狐とほぼ同じ、つまり狐のはしくれであることを表していた。
 だが、格は違いすぎるほどに違う。
 この小狐は力弱く、我等 白狐(はくこ)には遠く及ばない。
 そして、我等のように清らかなものとは違っていた。
 かといって、邪悪とも言い切れない。
 併せ持ち、どちらにも傾く。
 見た通り、子供や動物そのままの性質をしているようだった。
 狐として分類するなら、野狐といったところか。
 それが、何も知らずに自らをお稲荷さんと名乗り、仲間である筈の私に話しかけてきているのだった。
 「ねーねー、ナカにいるんでしょ?
 でてきてアソぼー?」
 人型をしているものの、狐耳だの尻尾だのをうまく隠せないらしく、話しかけている間 耳の上にあたる位置に結ってある蝶結びが、部分的に束ねられた髪の房ごと小刻みに揺れたりする。
 赤い服の後ろの大きな蝶結びは尻尾を変化させているらしく、これまた時々動いている。
 うまく化けている気でいるのだろうが、隙だらけだ。
 「ねぇねぇ、ねぇねぇ。」
 しつこく話しかけてきているが、こんな低級妖怪につきあってやる気はない。
 私は、神の使いだ。
 正しき者の願いを神に届け、また神の力を選ばれし者に授け、人を、世を守るのが私の役目なのだから。
 とはいえ、見れば見るほど、この小狐は愛らしい容姿をしている。
 成長すれば、さぞや。
 眺めるうち、小狐の表情が曇り始めた。
 「なんでおへんじしてくれないのー?」
 眉を寄せ、大きな目を潤ませる。
 私は、どこか落ち着かない気持ちになった。
 小狐が勝手に仲間と思い込んだだけで、私のせいではないというのに。
 小狐はうつむいて肩を落とす。
 「タマ、さみしーのに。
 ひとりぼっち、なのに。」
 声が震えている。
 放っておけば、泣いてしまう。
 私は、迷った。
 人ならぬもの同士、姿を消しても逃げ切れぬ。
 関わればこれきりでは済まないだろう。
 小狐はなおも嘆く。
 「おイナリさんみつけて、うれしかったのに。
 おともだちって、おもったのに・・・。」
 私は狐の像から出ると、人の姿を取った。
 「泣かずともよい、小狐。
 少しだけなら相手をしてやる。」
 言ったものの、本音はこんな子供相手にどう接してよいものか全く判らなかった。
 それでも、淋しがって泣いているのをただ見ては居られなかった。
 私を見上げた小狐の目は、辛うじてまだ涙をこぼしてはいない。
 私は、安堵した。
 小狐が問うてくる。
 「・・・おニィちゃん?おジィさん?」
 訳の解らぬ問いに、私も問い返す。
 「私が老人に見えるのか?」
 己の能力に自信はあるが、それでも目指す高みを思えばまだまだ未熟だ。
 我等のような“人ならぬもの”の姿は、その持てる力を反映するのが普通であり、修行中の身である私の姿は十代後半あたりに見える筈だった。
 小狐は答える。
 「だってアタマしろいよー?」
 成程。
 白髪は確かに老人の特徴でもある。
 「これは私の毛並みだ。」
 私は白い狐の姿に変わって見せる。
 「わぁ。」
 小狐が嬉しそうな声を上げた。
 珍しい白狐の姿を人に見られても厄介なので、すぐに人型に戻る。
 小さい無人の社の守りは退屈だが、人気のない事はこういう時に便利なのだ。
 「おイナリさん?」
 「違う。私は、その使いだ。
 お稲荷さん、とは此処に祀られている神様であって、
 狐の事ではないのだ。
 だから小狐よ、そなたもお稲荷さんではないのだ。
 覚えておくがいい。」
 私が教えてやると、小狐は一人前に反論してくる。
 「コギツネじゃないもん。タマだもん。
 タマはイイコだから、
 おーきくなったらおイナリさんになるんだもん。」
 成程。
 善なる狐であるから、お稲荷さんである、という理屈らしい。
 だが、間違いは間違いだ。
 「ではタマよ、改めて教えてやる。
 狐とお稲荷さんは別物だ。
 もっとも、そなたが今後も“良い子”でおり、
 尚且つもっと力をつけるならば
 私のように稲荷神様に仕えることもできよう。」
 うっすら口を開けて私の話を聞いているタマの目は、もう潤んではいなかった。
 「そっかー、タマ、おイナリさんじゃないんだねー。
 ザンネン。おイナリさんだいすきなのになー。」
 「ほう?なにゆえだ。
 あの方に会った事でもあるのか?」
 「ううん、だって、オイシイでしょ?」
 やはり私は、子供が苦手だ。
 話について行き切れない。

(続)