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SHOWRIさんの公開日記

2011年
12月18日
17:48
 しかし、この無垢な存在に人の性(さが)を教えねばならぬ。
 知ることで、淋しさを納得も出来よう。
 「だがな、タマよ。
 ヨシアキの身にもなってやるのだ。」
 「ヨシアキ?」
 タマが小首をかしげる。
 「そうだ、タマよ、タマがヨシアキを慕う・・・好いておるように、ヨシアキもまた、そのショウリという男が好きなのだ。」
 「えぇえー?!」
 タマが非難の声を上げる。
 「ヤダヤダ!キモいよー!」
 きもい。
 この言葉は聞いた事がある。
 若者言葉という、悪口の一種だ。
 肝い、つまり肝のようにぐちゃぐちゃとして苦く、嫌悪感があるという意味だろう。
 私はそう推察している。
 だが、愛の形は様々だ。
 タマには、まだ理解出来ぬのやも知れぬが、それを教えるのは私でありたい。
 まずは身近なヨシアキの愛を知ることで、タマには学んで貰おう。
 私は諭す。
 「タマ、きもいなどと言ってはいけない。
 ヨシアキがショウリを想う心も、タマがヨシアキを想う心も、違って見えるがそれは同じ愛なのだ。」
 タマは顔をしかめる。
 「ちがうもーん!
 あいってゆーのは、かれしとかのじょがらぶらぶちゅっちゅなやつだもぉーん!
 ヨシアキはちがうもんっ!」
 また泣きそうな顔に逆戻りしたタマの、小さな肩を掴む。
 「違わぬ。
 ショウリとヨシアキも、見方を変えれば彼氏彼女というものなのだ。」
 膝をついて、真っ直ぐにタマの目を見つめた。
 タマは、一瞬黙って私の言葉の意味を考える。
 次の瞬間。
 「うぅ~~~わぁ~あぁああ、ウソつき~~~!
 ちがうもーーーーん!キライぃ~~~~!!」
 大泣きしだした。
 「タマ、泣くことはなかろう。
 何を悲しむ事が有る?
 愛は愛なのだ、素晴らしい物なのだぞ?
 いやそれよりも、嫌いとは私か?
 私の事なのかっ?!」
 こんなに動揺したのは何年、何十年ぶりであろう。
 未熟な私は、泣き止まぬタマを目の前にして、ここに
あの方がいれば、と心の中で稲荷神様に助けを求めていた。
 「わぁーん、キライーキライー!
 ワタシのおニィちゃんキラーイこっちくんなー!」
 “ワタシのおニィちゃん”は私を指すらしい。
 すっかり嫌われてしまった。
 幼子の姿をしたタマは、知性もその程度なのだ。
 ヨシアキの性癖を理解するのは、荷が勝ちすぎ、残酷ですらあったかも知れぬ。
 私は消沈し、狐の像に戻ることにした。
 「悪かった、きっと私が間違っていたのだろう。
 もう戻る、そなたも帰るがいい。
 ヨシアキも、じき戻ろう。」
 「かえっちゃうの?」
 涙を拭う両手の間から、タマの大きな目がこちらを覗う。
 「嫌われてしまったからな。」
 「うっ、うっうわぁ~~~ん!」
 再び大声を張り上げて泣くタマは、私に帰って欲しくないように見えた。
 「私は、居た方が良いのか?」
 タマは、両手で涙を拭いながら何度も頷く。
 「・・・ぇっく、キライ、じゃ、うくっ、ないから・・・タマ、おともだち、なって?」
 そう言われて、私は理解した。
 嫌い、は嫌(いや)という事だったのだ。
 最初にタマは言ったではないか、お稲荷さんを見つけて友達だと思った、と。
 人間の友など持たなくて、他の狐の知り合いも居なくて、やっと見つけた私と友達になりたいだけなのだ。
 それなのに、私はタマの嫌がる事を言って悲しませてしまった。
 あの話が嫌だっただけで、私自身が嫌われた訳ではないのだ。
 目の前が少し明るくなった気がした。
 「ああ、そうだな、そうしよう。
 済まなかった、泣かせてしまって。」
 涙が落ち着き始め、タマが答える。
 「タマも、キライってゆって、ゴメンなさい。」
 「良いのだ、悪かったのは私なのだから。」
 私が苦笑すると、タマも少しだけ笑った。
 「なかなおり?おともだち?」
 そっと、遠慮がちに訊いてきた。
 「そうだな、宜しく頼むぞ。」
 私は微笑みかけた。
 今はそれで良いのだ。
 愛は、タマにはまだ難しい。
 「やったー、えへへ。」
 タマは、やっとまた元通り明るい笑顔を見せた。
 文句なしに愛らしかった。
 話していると神経が磨り減っていくが、それでも帰したくないと思えた。
 「ねぇねぇ。」
 「ん、何だ?」
 「ワタシのおニィちゃんは、おなまえ、なんてゆーの?
 タマはねー、タマだよ。」
 「名前、か。」
 我等は白狐と呼ばれるが、“まとめて”白狐でしかない。
 それは名前とは少し違うが、近くには私の他に白狐は居ない。
 「白狐だ。」
 私はそれを名前とする事にした。
(続)