「ハクコ?」
「そうだ。」
「げろ?」
「げ・・・何だと?」
「いつもきもちわるいの?」
私は会話の内容に大きな擦違いを感じた。
少し考えて、思い当たる。
吐く、子・・・?
「タマ、今のは忘れてくれ。」
「だいじょーぶぅ?だいじょーぶぅ?」
心配している所を見ると、私が本当に吐くと思って居るのだろう。
ややこしい。
別の名を考えよう。
「白夜、だ。白夜と呼ぶが良い。」
陽の沈まぬ、白き夜が有るという。
白からとっさに連想したものだが、神秘的な響きは私に相応しい。
「ビャクヤ?」
「そう、白夜だ。」
ふぅん、とタマは言い、嬉しそうに笑った。
「ビャクヤとタマ、きょうからおともだち。」
「ああ、そうだ。」
そこへ、不意にあの方の声が割り込んだ。
「びゃくや?それってあなたの名前?」
「稲荷神様、いらしていたのですか。」
「いい名前ね、白夜くん、か。」
稲荷神様は、優しく微笑んだ。
◆
タマが居ない間、ヨシアキはせっせとおイナリさんを作っていた。
山盛り作って他におかずとおツユを仕上げ、ダイニングテーブルに突っ伏してうたた寝こいてるところへ、やっとタマが帰ってきた。
もう夕方になっていた。
「タダイマー。」
「あぁ、おかえりタマ、遅かったね。
ごめんな、怒った?」
外へ出ても、用心のため、と人間に話しかけたりしないように言われているタマは、友達がいない。
ヨシアキを待ちきれなくて出て行ったものの、遊ぶ相手もいないはずなのに、タマはゴキゲンだった。
「おかえりぃヨシアキー、あのねタマね」
話そうとして、山盛りのおイナリさんに気付く。
「わぁーおイナリさーん!ヨシアキ ダイスキー!」
飛びついてきたタマを抱きしめ、ヨシアキは
「おれもタマが大好きだよ。
ちょっと早いけど、ゴハンにしちゃおうか。」
と言った。
その晩、ヨシアキは深く悩んで今日会っていたはずの親友に電話をかけた。
「しょーちゃん、タマ、友達作ってきたよぉ。」
「何だと?!いやまずいだろ、いや、いやでも少しの間くらいならバレないかも知れないし、許してやっても。」
「いやー、それがあ、その、ね?あぁあ~。」
「何だ何だ何だ、いつにも増して歯切れが悪いな。」
ショウリに促され、ヨシアキは意を決する。
特にショウリには物凄く言い辛いこの話、だが相談できるのもショウリくらいなものなのだ。
「それが、その、お稲荷さんと、あと同じ狐でお稲荷さんの使いなんだって。」
「お稲荷さん?!神様じゃねえか!
本物なら・・・すげえな。」
「それは、そうなんだけど。
その狐の、白夜くんが、・・・おれと、しょーちゃんが、愛とか、何かもう、タマに変なこと吹き込んでて」
「ぶっ・・・愛って、なんっ、ゲイってことか?!」
動揺するショウリの声。
「もぅおれ、どう訂正してどこまで教えればいいか・・・」
ヨシアキは頭を押さえ、目を潤ませた。
「しっかりしろって、ゲイの知識はタマにはいらんだろ。
つーかお前はそんな事に詳しいのかよ。」
この際どうでもいいツッコミが入るあたり、ショウリも少なからず動揺していた。
「タマがぁ、おれのタマがこれ以上変なこと言い出したりしたら、おれ、おれどうしよう、しょーちゃぁーん!」
「知るか・・・くそっ。」
電話の向こうで、ショウリは頭をかきむしった。