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新田真子さんの公開日記

2012年
06月12日
21:10
the Higher Power of Lucky
author Susan Patron 読了


カリフォルニア、モハベ砂漠の古い鉱山跡にある、人口43人のハード・パンの町。10歳になる少女 Lucky は、町外れのトレーラーハウスに、フランスからやってきた彼女の父の最初の妻であり現在の彼女の保護者、Brigitte と住んでいる。町の風鈴博物館で行われる「依存症克服のための12段階」の会 (twelve-step group )の集会を覗き見てから、Lucky は彼女自身の Higher Power を見つけようと決めていた。でもそれがいったいなんなのか、まだ彼女自身にもはっきりとはわからない。
Lucky の父は、フランスで結婚した Brigitte と別れた後、アメリカに戻り、Lucky の母と再婚。二人の間に Lucky が生まれるが、しかし子供が欲しくない父は、Lucky の母とも別れ、その母もある嵐の翌日、事故でなくなってしまったのだった。父の顔も知らない Lucky は砂漠の町でたった一人取り残されてしまうが、父はフランスから Burigitte を呼び寄せ、鞄ひとつでやってきた Brigitte は、言葉もろくにわからないままその町で Lucky と砂漠の町で暮らすことを選んだのだった。
それから数年。Lucky は Brigitte がフランスへ戻ろうとしていることを知る。自分を捨て、Brigitte はフランスでの彼女自身の暮らしを選ぶつもりなのだ。その日から Lucky は、家出を計画する。いつかその兆しが見えたとき、誰にも知られずに行方をくらまそう。そうして、自分が Brigitte や、母の葬式にさえ顔を見せない父や、ハード・パンの人々にとっていったい何者なのかを確かめようと考えるのだった。しかし、その兆しが見えたその日、砂嵐が町を覆い、近所に住む少年 Miles が行方不明になってしまう。Lucky は、砂嵐の中、Miles を探すのだった。

冒頭から、アメリカ中西部の寂れた町と、普通でない境遇の登場人物で、なんだかヴィム・ベンダースが映画にでもしそうな雰囲気のいい感じ。子供拒否の父に、死に別れる母とかなり悲惨な境遇の Lucky 。しかし、もともと寂れたハード・パンの生活しか知らない Lucky は、それをそのまま受け入れているのだが、依存症克服の会で耳にした Higher Power を自分も得たいと考えるようになる。Lucky をとりまく人物像もおもしろいっていうかすこし変なヒトばかり。普段はまともな Brigitte も、哺乳類以外の小動物が大嫌い。縄の結び目に天賦の才を持つ友達。依存症克服の会で自身の体験談を披露する男、などなど。
印象的なシーンはいろいろあるが、Lucky たちがある家で聞くラジオがいい。カリフォルニアの交通情報。人口43人。ほとんど何もない町のラジオから流れるのは、道路を流れる大量の自動車と、事故による渋滞のニュース。それもアメリカ。ここもアメリカ。
前半はヴィム・ベンダースだが、後半は児童向けらしい展開になって一安心。
しかし、一応子供向けなんだよね、この小説。2007年度のニューベリー賞受賞作。すごいな、ニューベリー賞。もっとも大人が選ぶ本なので、子供がどう思うかは子供が読んでみないとわからない。でも児童向けでも十分な読解力を要求する作品が書かれているというのはたいしたものだと思うんだな。

ところで Higher Power というのはアルコール依存症克服のために提唱された、「自分自身を越えたより強い力」という意味の言葉だそうで、今では他の「依存症克服のための12のステップ」の会でも使われるようになっているそうです。今の自分自身ではどうにもならない現状から抜け出すためのより確かな力。the higher power of lucky では、ハード・バンの町でアルコール、過食症、ニコチン(タバコ)などの依存症克服のための集会がひらかれていることになっています。ハード・パンには普段の生活で依存したくなるようなものは何もないからちょうどいいんでしょうね。
はたして、Lucky は彼女の求める Higher Power を手にすることが出来るでしょうか。