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新田真子さんの公開日記

2013年
01月29日
20:29
カタカナ言葉というのがありますね。主に日本語以外の言語をその音を元に日本語で表現しようとした言葉で普通外来語と呼ばれます。日本語そのものをカタカナ表記したものも当然ありますが、それは普通わざわざカタカナ言葉とはいいません。前者の例はイラスト、後者の例はマンガ。とてもわかりやすいな。
で、問題は前者。外来語といわれるカタカナ言葉。
もともと日本語にない発音が外国語にはいっぱいあるので、それをなんとかして日本語に(その音がないにもかかわらず)表記しなければならない。そんな場合にはそれを表現しようとする人それぞれにあれこれ表記を試みることになり、やがて一般に定着した表記が現れるまで同じ語に複数の表記が存在することになります。
代表例は Mary 。女性の名前ですが、これには、マリー、メリー、メアリーの3種類の表記があります。残念ながら Mary は、文字にすると単純なのに、二重母音+R+母音という複雑な音を含んでいるので日本語には表記不能。そこで音の似た3種類が表記として考えられましたが、現在ではマリー、メアリーの2種類が生き残っていると考えられます。メリーってめったに見ないでしょ?多分もう「メリーさんの羊」くらいなんじゃないかなあ。
外来語ならどんな言葉でもこの問題を避けては通れません。
そんななかでも種類が多いのが人名。
なにしろ一般名詞じゃないので勝手に日本語訳するわけにはいかず、とにかく音の日本語表記を考えなければいけない。有名な人名でない限り辞書を見れば発音が書いてあるとは限らない上、次々とあたらしい人名がやってくる。さらに、「音」がくっついてくる保証はなく、文字列だけから音を類推しなければならない場合もある。メアリー・メリー・マリーでもこんなんだから、いちいち日本語になおさなければならない翻訳者の苦労はいかばかりのものだろうか。

しかし、翻訳者だって人の子だ。けっこういいかげんなことをしている場合もある。
たとえば、第40代アメリカ合衆国大統領、ロナルド・レーガン(Ronald William Reagan)。実は初めのころ、リーガンと新聞にも表記されていた。Reagan という文字列をみれば、リーガンと読みたくなるのが人情。real (リアル) bleach (ブリーチ) read (リード) league (リーグ) hear (ヒアー) など、子音+ea という文字列は イ(イー) という音の場合が多い。pearl (パール)など、アーという音の場合もある。がしかし、エー、という音は、いま思いつきませんね。
で、おそらく翻訳の人は実際の音を聞く前に、文字列だけから一般的な音を類推して、リーガンと表記してしまったのだと考えられます。もちろん、後に、レーガンと発音することがわかってからはレーガンに改められました。
今年、NFLで大活躍のサンフランシスコ・49ナーズのQB、Colin Kaepernick。これは現在でも、コリン・ケイパーニク、ケイパニック、キャパニックの三種類の表記があり、日本のTV放送でもケイパニック、キャパニックの2種類の発音で紹介されています。文字列をみると、Kae ケイ per パー nick ニック と読みたくなるのが人情。でも、現地の放送を聴くと、アナウンサーがキャパニックと発音しているのがわかります。そろそろキャパニックに統一してはいかがなものだろうかと思わずにはいられません。
80年代から90年代のアメリカ、インディーカー・レース(CART)で活躍したドライバー Bobby Rahal 。はじめは長い間、ボビー・レイハルと表記されていましたが、CARTが日本のツインリンク茂木で開催される際、正しくはレイホールだからレイホールと書いてくれ、と、本人からの要請があったそうな。で、以後ボビー・レイホール。rahal をレイハルと半ローマ字読みしたくなるのは人情なのだが(頭のレイ、子音+母音を母音の文字音で読むというのはよくある)、なにしろ本人がレイホールだというのだから仕方ない。実際 hall ball fall など、子音+all で母音がオになるパターンは多い。そもそも all がオなのだから当然のことといえるだろう。しかし Rahal はLが一個なのでついついハルと読んでしまったということになるわけですね。実際「2001年宇宙の旅」のコンピューターHALはハル。グリーンランタンのHal Jordanもハル・ジョーダン。hallation(ハレーション光彩のことね)Halleluha(ハレルヤ)Halifax(ハリファックス)などhalでハルと読む語もあるがどれもhalが単語の頭にある場合であることが条件だと思われる。
キック・ザ・びっくりボーイの Kendall Perkins も、ケンドール(ケンドル)・パーキンスが原語音声の発音。文字列の中ほどにall(またはal)があった場合、これが普通の読み方なのだな。ところが、どういうわけか日本語版ではケンダルになっている。時折ケンダルと聞こえないこともないわけではないが、ケンドルよりケンダルの方が女の子の名前っぽいと思ったのかもしれないし、ただ単にローマ字読みしただけなのかもしれない。kendall は女性名だけでなく男性名にもなり、ファミリーネーム(姓)にもなる名前。なので、わたしは最初 Kendall をキャラクターの個人名だとは思いませんでした。これは蛇足。

という具合に、結構本人や原語でどう発音しているかを無視して、わりと適当に日本語表記する場合があるのがおわかりいただけたでしょうか。
そこで、やっと本題。

Penelope ですよ。ギリシア語起源の女性名(オデュッセウスの妻の名前)。英語での発音はペネロピー。
ところが、このペネロピー。めったにペネロピーと読まれない。
この名前がおそらく日本で一番最初に広まったのはTVシリーズ「サンダーバード」に出てくる国際救助隊ロンドン支部のお嬢様エージェントの名前として。ところが、日本語では「レディ・ペネロープ」なのだ。原語ではもちろんレディ・ペネロピーと第1話の初登場の時から本人が言ってるんですよ。それなのにどういうわけだ。これは、当時台本翻訳の人がたまたま Penelope の英語発音を知らず、フランス語発音のペネロプを流用した結果と考えられる。フランス語は末尾の e を発音しないのでペネロプ(正確には日本語にある末尾の母音ウはフランス語にはない)になる。また、文字列から音を類推したふしもある。pene ぺネ lope ロープ(rope が縄・ロープ。lope は跳ねるようにステップを踏みながら歩いたり走ったりすることでやっぱりロープだから)というわけ。このへんからペネロープという表記をひねり出したと思われる。
同じころ日本では「チキチキマシン猛レース」というアメリカのハンナ・バーバラ(正確にはバーベラ、でも当時はバーバラ)が制作したアニメーションが人気を博したが、これに出てくるキャラクター、ゼッケン5プシーキャットのドライバー、ミルクちゃんの本名が Penelope Pitstop (ペネロピー・ピットストップ)。のちにスピンオフ作品「The Perils of Penelope Pitstop」の主役になったが、このときの名前はペネロッピー。日本版タイトルも「ペネロッピー絶体絶命」。ペネロピーと似ているようだけど、ロッピーと音がつまったりしないから、これもこの番組独自の表記ということになる。
最近になって「アトミック・ベティ」という作品の中ではじめて(かどうかはわかりませんが)ちゃんとペネロピーと読まれていた。
21世紀。やっと Penelope をペネロピーと表記するようになったのかと思ったら世の中そう甘くはない。
この春公開予定のディズニー・ピクサー最新作「Wreck it Ralph(邦題シュガー・ラッシュ)」にでてくるキャラクターVanellope (あきらかにpenelopeのもじり)の日本語表記がヴァペロペなのだ。どうして?英語ではちゃんとヴァネロピーって言ってるのに(作品だけでなく製作者のインタビューでも)なぜだ。これではpenelopeがまたペネロペになってしまいかねない事態ではないか。
ちなみにこの名前の有名人はスペインの女優ペネロペ・クルス(Penelope Cruz Sanchez 正確にはpenelope の2番目のeの上にマーク付き)。スペイン語ではほぼローマ字読みなので、ペネロペ。これで最近はみんなpenelopeはペネロペと読むんだと安易に考えてはいないか?
フランス語では上記の通りペネロプなのだが、困ったことにフランスの絵本、青いコアラの女の子「Penelope(正確には最初の2つのeのうえにマーク付き、これはエと発音しなさいという印)」 は日本語では「うっかりペネロペ」とスペイン語読みなのだ。どうなってるんだ。ちゃんとフランス語ではペネロプと発音しているのにわざわざペネロペにする意味がわからない。

と、いうぐあいに、どういうわけか日本語表記においては、英語ではペネロピー、フランス語でペネロプ、スペイン語でペネロペなのに、英語、フランス語作品ではわざわざ別の言語読み表記だったり創作(勝手に日本人が考えた)読みされるという不思議な状態なのだった。
誰かわけをおしえてください。つーかペネロピーって音が嫌いなんですか?日本の人。